『君の名前で僕を呼んで』

 眩しい色彩がひと夏を彩っていた。にぎやかと言っていいくらい色であふれている画面なのに、印象として残るのは静けさ。少しけだるい、懐かしさすら感じる時間の中にころころとピアノの音が響いていった。


 観終わったあと、胸を衝かれて言葉がでてこなかった。自分自身の過去の、もう乗り越えられないとすら感じた事柄をひとつひとつ思い出してみる。そのどれもがいまややわらかく、丸みを帯びてすらいるけれど、その瞬間は確かにくっきりとした輪郭を持っていた、ちょうどこの映画で描かれた出来事のように。胸に押し寄せる感情を痛いくらいにかみしめながら、この瞬間が二度と訪れないこと、やがて思い出のひとつになることはあっても忘れるなんてことがないことをどこかで自覚していた。全部、わたしにとって、わたしにとってだけ特別な大切な記憶たち。


 あまさとやさしさをふくんで、一瞬を永遠にするように名前が呼ばれるのを見つめていた。

 

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