四月一日の前に カードキャプターさくらの根底を流れるもの

 四月一日。わたしにとってこの日はエイプリルフールなんかじゃなく、ずっとカードキャプターさくらの主人公、木之元さくらちゃんのお誕生日です。


 少しずつグッズ展開が広まってきたと思ったら、ついに新シリーズの指導。一ファンとして、とてもうれしいです。人の口の端にのぼることも増えて、わたしは単純にとてもうれしかったのです。けれど時々、冷水を浴びせられた思いをすることもありました。


「さくらのお兄ちゃんと初恋の人が結ばれるって、今考えるとやばいよね」
「親友もレズじゃん?」

どちらもわたしが直接言われたことのある言葉です。前々からちらほら聞かれていたものではあるのですが、カードキャプターさくらという作品への関心が高まるのと比例するように、よく見かけるようになったと感じます。こういう類の意見を聞くたび、確かにそうかもしれないけれど、そうじゃないのに、と自分でも名状しがたいもやもやを抱えていました。今日はどうしてわたしが違和感を覚えてしまうのかの話をします。

 

 漫画作品を描く際には、何をテーマにして物語を構成するかが考えられます。これは別にCLAMPに限ったことではありません。ただ、CLAMPは、作品に表側に見えるテーマとは別に『裏テーマ』を設けるようにしているそうです。(ちなみに、表側のテーマは『根拠のない自信』だそうです。)

『さくら』に関しては、この表現が正しいかどうかわからないんですが、「マイノリティに対して優しい作品にしよう。」ということを最初から話していたんです。

 実際に作品内には裏テーマを体現するかのようにいろいろな関係性が織り込まれています。さくらの兄、桃矢と、初恋の人、雪兎との関係。さくらを見る知世の視線。雪兎に恋とも憧れともとれる思いを抱く小狼。こうした同性への思慕だけでなく、寺田先生と利佳の関係など、教師(教育実習生)とその教え子との恋愛模様も複数存在します。
 ここにおけるマイノリティは恋愛(もしくはそれに準ずる感情)だけに関するものではありません。これをマイノリティと言い切ってしまうのは問題があることを承知で言いますが、たとえば木之元家は母親が鬼籍に入っています。小狼父親も他界しており、事情について彼は語ろうとしませんが、家には父親の写真が一枚もありません。知世の家も母親しかおらず、父親の話を聞いたことがないと言うさくらにも、知世は詳細を言わずはぐらかします。物語の中でメインを貼る三人の小学生が、両親がそろい、子供がいて、といういわゆる”一般的な家庭”で育ってはいません。さらに小狼はその家すら出ており、日本という彼にとっての異国で一人暮らしをしています。
 ここで大事なことは、主人公であるさくらを含めて、登場人物の誰もがそれを受け入れていることです。さくらは、たとえば雪兎に対する小狼の気持ちを知ってもそれをおかしいとは言いません。どころか、ライバルとして対等な存在と認めています。一人で家事をこなしていることには素直に感嘆もします。また、アニメ版では小狼のいとこの苺鈴が途中から登場し、自らを小狼の婚約者であると宣言します。さくらたちはみな驚きますが、そのことを「おかしい」と断ずる子はいません。この作品の中には偏見の目を持つ登場人物はいないのです。
 アニメの監督を務めた浅香守生さんは、『みごとなまでに悪い子がいない』と彼らを評しています。それはCLAMPの『マイノリティに対して優しい作品にしよう』という思いが詰まっている故です。彼らはまたこうも言っています。

(世間一般で健全な関係と呼ばれるものからずれているものに)さくらちゃんの姿を見て、何かを感じてくれたらいいな、と。

カードキャプターさくらという作品は、自分が考える”普通”ではないものに出会ったときの接し方を教えてくれる、考えさせてくれる、そんな作品なのです。
 カードキャプターさくらはいうまでもなく”かわいい”作品です。主人公のさくらの前向きさ、ケロちゃんのころんとしたぬいぐるみのようなフォルム、毎回変わる衣装のデザイン。表面的なかわいさをあげれば暇がありません。ただ、そのふんわりとしたかわいらしさを根底で支えているのは、どのような人物に対しても偏見なく注がれる温かい視線によるものが大きいとわたしは考えています。
 CLAMPは自作品の二次創作について、制限を設けないと明言しています。カードキャプターさくらのどこを切り取って、どのように想像をふくらませるか、それは読み手の自由です。(実際に桃矢、雪兎について、友情ととってもそれ以上の関係と取ってもいいという言及があります)ただし、真っ当なカップルが小狼とさくらくらいしかない、カオスである、という嘲笑半分の語り方は少し違う、とわたしは思うのです。

 長々と書き連ねましたが、おつきあいくださってありがとうございます。
 さくらちゃんのお誕生日をまたこうしてお祝いできること、幸せに思います。

 

なお、文中の引用文は『カードキャプターさくら メモリアルブック』に依りました。